2000.5.19.関西大学法学研究所

 解放後韓国史に見る国家・企業関係の諸相

神戸大学大学院国際協力研究科 助教授
木村 幹

 

1. 理論的検討

国家・企業関係の整理
1) 所有・経営への直接的関与 − 企業のインサイダーとしての国家
2) 企業経営に対する国家の操作・介入
 (A)「物理的暴力」による操作と抵抗
 (B)「経済的刺激」による操作と抵抗
 (C)「イデオロギー」による操作と抵抗
3) 政策決定過程における企業の関与
 (A)個人的紐帯よる関与
 (B)制度化された関与
4) 企業家による国家への挑戦

2. 問題設定

韓国における国家・企業関係の特徴
1) 世界的な巨大財閥の存在
2) 相対的な「小さな」国家 − 租税負担率等
  3)「小さな」国家、の、「大きな」企業に対する、一般的優越
4) 国家による経済運営の相対的成功
ここで問題となるのは、
 Q1 「小さな」国家が何故に「大きな」企業を統制し得ているのか
 Q2 市場的な刺激を排除しがちな、国家による経済運営が何故に破綻しないのか
→ 以下、この問題を解放以後の韓国史を見て行きながら、考察する

3.「政治の時代」第1・2共和国期(1948〜1960) − ビジネスによる失敗したチャレンジ

 韓国における「脱植民地化」の特徴
1) 勝利なき解放+2)宗主国影響力の完全排除+3)大戦期総動員体制の後継、
からのスタート
→ この結果、韓国の国家は、
1) 政治的正統性の相対的弱体+2)日本からのフリーハンド
をもって出発し、1)を補うために、2)庇護者を完全に喪失した日本人資産の没収と、3)により継承した膨大な総督府資産・組織と合わせて獲得した、巨大な物理的強制力と経済力を、自らの支配の為に積極的に利用する
特にこの点において重要なのは、
A)解放直後の国内最大財閥「湖南財閥」による、李承晩政権への挑戦
(最大野党としての、韓国民主党 → 民主国民党 → 民主党)
→ これを打倒する為に利用された「金融締めつけ」
cf.日本統治末期における朝鮮人系銀行整理 − 終戦までに、半島内のほとんどの銀行が総督府、若しくは日本人により所有されるようになる
→ 結果としての、国家の湖南財閥圧倒(分解・縮小)
B)左翼勢力による挑戦
これを打倒する為の、労働組合弾圧と、御用組合結成
→ これにより韓国政府は、早期において労働組合を無力化する(労働セクターの排除)
C)追加された国家の「大きさ」
 朝鮮戦争勃発直後から行われた巨大なアメリカ援助 − 「三白」援助
→ 国家は企業に対して、新たに「配分すべきもの」を持つこととなる
 加えての、
民営化 − 国家による株式売却そのものが既に、国家による巨大な利益配分
→ これらによる、既存の民間セクターの国家への従属化の進展
★ポイント − 国家支配階層の資金面での企業(経営者)からの独立(優越)

4.「開発の時代」 − 第3・4・5共和国期(1961〜1986)

朴正煕等による軍事政権の登場 → 以後の韓国における国家・企業関係のひな形を作る
軍事革命当初の施策
1)「不正蓄財者」処罰 − 企業経営者に対する巨大な警告とこれへの支持
→ 以後、これに類似したことが政権交代の度に行われる
2) 銀行部門の再国営化 − 50年代前半の金融統制力の回復
→ 結果としての、民間セクターの国家への従属状況確定
(以後、財閥のチャレンジは、1990年代の現代・大宇まで見られなくなる)
しかし、重要なのは、
 朴正煕政権がこれらの財閥有力者達を自らに服従させつつも、これを自らの体制の中に巧みに取り込み、この意見を入れる形で経済運営を行なっていったこと
→ 「経済戦略会議」の出現(システムの組織化) − 有力財閥・財界
→ 経済政策そのものは、これらの企業経営者の意向を十分に取り入れた形で行われる
ここで問題となるのは、
国家がこのようにして決定した政策(輸出志向、重化学工業中心、等等)がどのようにして、「強制」されるか
ここにおける、
金融の登場 − 政策的融資
→ 特にこの前提となるのが、輸出を前提とした、銀行からの貸しつけ(特に外貨)
ハンティントンの議論
そのままではレント追求活動に消えてしまう可能性のある資金を、「拡大再生産」の
ための生産的投資へと向かわせる必要 → この為の金融政策の重要性
CF.巨大国営企業の出現 − 浦項製鉄と大韓石油公社
→ 軍事産業を支えるための補助的組織

5.「IMF時代」 − 第6共和国期(1987〜現在)

 90年代の状況民主化以後の状況
1) 80年代における銀行民営化 − しかし、制度的・人事的等々の次元において以前、経済企画部・韓国銀行に対して従属的な地位に留まる
→ その端的な表れとしての、「韓宝事件」(96) − 大統領の決裁により融資可否が決定
2) 超巨大財閥と「第二金融圏」の出現 − 国家からフリーハンドを持ちはじめた巨大財閥
3) 現代(92)・大宇(96)の政権への挑戦と失敗 − 「財閥」不信の不変
→ 世論をも利用した「反財閥キャンペーン」
ここにおける「IMF危機」(韓国金融危機)
 その根本的原因としての「過剰投資」 − この背景に存在する「生産的投資」への甘いチェック(「開発の時代」の負の遺産)
CF.長期融資から短期融資へのシフト
− 甞てのような安定的な生産的投資、を困難なものとする
しかし、
 この金融危機により、財閥・金融機関は、再び、政府の支援を必要とするようになる
→ 具体的な施策としての、金融自由化(政府資金導入+外資導入)
+Big Deal(財閥間業務移転)
ここにおける根本的問題としての、
 政府の力を持っての「自由化」 − 逆にこの自由化・民営化が国家の統制力をさらに強くする

6.むすびにかえて

 韓国における、国家・企業関係の基本構造
1. 金融を通じた国家による、企業への圧倒的優位
2. 金融機関を有さず、社会的支持を得ることもできない企業の脆弱性
3. 散発的に発動される企業家「処罰」による国家物理的暴力装置の効果
4. 従属する企業の政策決定過程への編入
5. 今日の問題としての、「世界化」「短期金融化」する現実への対応

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