戸籍から住民登録へ

− 解放前朝鮮半島における住民把握形態の変化 −

 

問題設定

○朝鮮半島における住民把握の特殊性

1)現代における「戸籍制度」の存在 − 日本統治との連関と内地との相違

2)前近代における「戸籍」の存在 − 前近代からの連続と断絶

3)NIEs的発展と住民把握の関係

→ 報告においては、主として1)2)について考察を行う

 

第1章 朝鮮王朝における戸籍制度

 

第1節 前近代の戸籍

 朝鮮半島における特殊状況としての前近代的「戸籍」の存在

→ 王朝政治における戸籍とはなにか

 

1)記載事項 (大丘の例を参考に)

  面 里 統

  戸の番号 

  戸主− 官職(封建的身分)、氏名、年齢、生年、本貫、男系直系尊属(曽孫まで)及び外祖父の官職

  妻   − 封建的身分、名、年齢、生年、本貫、奴卑所有者、

男系直系尊属(曽孫まで)及び外祖父の官職

  母 身分、名

  男子  − 官職、名、年、生年

  男子  − 名、年、生年(新規登録の有無)

  男子  − 官職(身分)、名、年、生年(新規登録の有無)、(所有者)

  後妻  − 官職(身分)、名、年、生年(新規登録の有無)、(所有者)

  女子  − 名、年、生年

  女子  − 名、年、生年

  子(病人) − 名、年、生年

  女子  − 名、年、生年

(女性については、寧ろ、名を記さないことが通例)

 

2)戸籍作成の目的

 1.国家が徴税する際の賦役を決定のための基礎資料

 2.封建的身分確認 → 徴税・科挙・兵丁

 3.住民の土地への束縛(移動制限)

  例・奴卑 − 主人を記載することにより移動を制限

   (逃亡した奴卑がある場合はその旨も記載)

 

3)情報管理

 戸籍を基に統計データである「統括」が、上位行政単位である県によって編集される

(徴用の便に立つように、老壮幼の別、及び、常民、奴卑の別を以て編集される)

原則として、

 作られた戸籍は、

   登録・面で集計 → 牧郡にて戸籍原作成 → 謄書を漢城・観察使に送付

   → その謄書を内部に送付 

 

第2章 「戸口調査規則」1896.9.1

 

第1節 制定の背景

 

1)一八世紀以降における朝鮮王朝の住民把握力の低下

 原因 1.壬辰倭乱、丁酉胡乱による、戸籍原簿喪失、及び住民の移動

    2.人口流動化による把握困難化 − 村落の解体

    3.身分制度の弛緩

    4.「民乱」の頻発

    → 日本とは全く異なる、流動的な社会の形成

 

2)戸籍の実態からの乖離の進展

 1.人口データの実態からの乖離

  (1)統計上の人口の一貫した減少

  (2)女性・子供の戸籍からの離脱

  (3)住民把握力低下の結果としての財政難による戸籍調査力の低下

これに対して、

 19世紀後半における従来型調査強化の推進 社会的状況が変化しており挫折

→ 抜的改革の必要

 

3)制定時期について

    日本軍ソウル入城 1894.6.21.(甲午改革開始)

閔妃暗殺 − 1895.8.20.

    露館播遷 − 1896.2.11

    ロシア森林伐採権獲得 − 1896.9.

→ 同規則が制定されたのは、近代的改革が行われ、且つ日本の影響は少ない時期に当たる

 

第3節 改正の内容

 

P)作成頻度の変化

  三年一成籍から毎年1月の編修に改める (漢城・各牧郡での取りまとめ)

 

情報管理 従来と変化なし

(改革で変化したのは、調査方法や情報管理のあり方ではなく、調査内容とその頻度)

但し、情報編修の方法は変化 統の改定

  10戸1統への変化

  戸毎の作成

  家宅間数の統計

 

3)記載事項

   戸主 − 氏名・年齢・本貫・職業・前居住地・移動月日・尊属(男系曽祖まで女系祖父)

   同居親族 − 姓・本貫

   非親族同居者

   雇用者

   現存人口

   非親族同居者合計数

   家宅

   作成年月日

   作成者氏名・印章

 

4)主たる改正意義

   封建的身分確認の役割の消失

   居住地意主義の徹底 − 親族であっても同居せざるものは記載せず

   血族主義の強化 − 同居人の氏名の削除

 

 

第三章 「民籍法」1909.3. − 日本による改革の始まり

 

第1節 制定の背景

  1905.11.17.乙巳保護条約 − 韓国保護国化

  1907.6.29.ハーグ密使事件

  1907.7.24.丁未七条約 − 韓国統監の内政における指導権確立

1909. 7.12.己酉覚書 − 司法権移転

 

第2節 改革の中心的内容

  従来制度 − 戸籍とは「戸口の調査」に過ぎない

  新制度  − 「家」と「家」での個人の身分関係を公示するものに変化

→ 定期的に作成される「調査書類」から公証文書としての「永久保存文書」に

 

第3節 記載事項(告事項)

 出生、死亡、戸主変更、婚姻、離婚、入、罷、分家、一家創立、入家、廃家、廃絶家再興、附籍、移居、改名、親権・管理権の喪失・失権の取消、後見人・補佐人変化

 

第4節 戸籍データの移動

 尹・邑面長の責任にて作成・保管 → 上部機関への上送制度廃止

 これらのデータは、大正14年まで、国勢調査の代わりとしても用いられる → 「常住人口」のみの把握

尤も、これら戸籍データ、即ち、「民籍簿」の保管・調査の実態はこれとは異なる

資料・民籍取扱要綱

イ. 民籍法の取扱範囲

  法は籍者のみの謌オにして寄留者または滞在者の如きは法に拠らす別に定むる戸口調査規則の取扱に委る(戸口調査規則との併存 但し現実には、民籍に一元化されていったように思われる)

ロ. 民籍の取扱

身分戸口の異動を知らん為には人民の告のみを待たすして寧ろ警察官吏の戸口調査に重きを置き両者相待て其の完きを期せむとす

ハ. 民籍簿

民籍簿にして警察署・警察分署の直轄区域内に係るものは各其の署に巡査駐在所の受持区域内に係るものは各其の駐在所に之を備う

各受持巡査は人民の告及戸口調査に依りて知り得たる異動又は誤謬を民籍簿に照合して加除訂正すべし

ニ. 口頭告書

 口頭告書は各面長(面長なき地は之に準すへき者)の下に備付け人民より口頭告ありたるとき面長は之に其の要項を記載し翌月五日迄に所轄巡査駐在所に送付すへし

  受持巡査は面長より送付せる告事項にして其の受持区に係るものは之に依り民籍簿を加除し受持区域外のものは其の所属の警察官署に送付すべし

→ このような民籍事務の警察への委任は、1915年まで続く

(但し、その後も「警察官署をして臨機適当の援助を与え」る)

 

第5節 「民籍法」の意義

 1.住民の居住地から「家の所在地」=籍地へ

→ 「住民登録」からの離脱のはじまり

 2.戸籍記載者の変化 − 同居者から戸主の親族を中心とする

(但し暫定的に、戸主との同居者の記載欄あり)

 3.年齢から生年月日に − 永久保管を前提とした形式

 

 

第四章 「宿泊及居住規則」1911.6.総令75号、改正1918.6.総令108号

 

第1節 時代背景

 日本による朝鮮半島植民地支配の開始

 1910以前における朝鮮半島内治安悪化

 「民籍法」による「戸籍」の住民把握力の低下

 内地人の流入

→ 主として治安維持を目的として、半島内における実態的な住民移動状況把握の必要性が生じる(居住規則が宿泊規則と同時に定められた主たる理由)

→ 戸籍を保管するものとしての居住規則(籍地居住者は必要なし)

 

第2節 記載事項

 氏名、籍(外国人は国籍及び外国における住所)、職業、生年月日、居住所、居住の日、前居住所、戸主・非戸主の別、非戸主の場合は戸主の氏名・戸主との続柄

 

 記載順・戸主、戸主の直系尊属、戸主の配偶者、戸主の直系卑属及びその配偶者、戸主の傍系親族及びその配偶者、その他寄寓者

 

第3節 データ管理

 届出先 尹・面長

 cf.宿泊については、警察署・警察官駐在所

 

第4節 内地との相違(寄留法との比較)

最大の相違としての、

 籍地との連関の欠如 → 事務的混乱の発生

「然るに現行規則は籍と居住との連絡なく又住所居住と居所居住との区分明ならず且つ籍不分明者又は無籍者の居住に対する取扱方法明ならず為に住民の住所又は居所を区分するに由なう又その籍地に住所を有するや否や知るに困難なる場合多し甚だしきは籍を瞞するも之を取締るべき途なし斯かる欠陥あるが為に面に於ける其の事務不整理に陥り之が匡正容易ならざるのみならず印鑑証明の場合における住所の認定及面協議会会員の資格要件たる住所の認定等に少なからざる不便あり又其の反面には多少の弊害もあるが如し」(任洪淳『朝鮮行政要覧 全』)

→ 現場ではこれを避けるために、戸籍謄等の添付を追加的に要求

cf.この記載から、「居住規則」による登録簿から、印鑑登録・選挙等の事務を行っていたことを知ることができる

このような原因としての、

「居住規則」の制定経緯 警察(より具体的には憲兵)の治安維持目的に制定される

→ 行政サービス提供を前提とせず作られているため、行政に流用することには無理があったとlえられる

 

第5章 朝鮮戸籍令  1922.11総令154号、改正1939.12.総令220

                                   (但し後者未見)

 

第1節 制定の背景

1919. 3.1.三一事件

  1919.9.10.齋藤総督文化政策公}

朝鮮における戸籍調査の実態

日韓併合以後の人口統計データの現実化 1920年頃になると現実に相当の接近を見せるようになる

→ このことは、最早戸籍データを行政側が上から収集せずとも、主として告制によって維持できるようになったことを意味している

1911. 9.27.朝鮮総督警務総監部事務分掌規定

− この中で「民籍事務及び戸口調査」を警察の職務として定める

(背景・面事務書の行政力不足)

→ これに対する批判 → 民籍事務の通常への復帰の必要

また、

 朝鮮民事令改正 − これまで「慣習による」こととなっていた戸籍業務を「内地化」する(内地「戸籍法」の適用)

より具体的には、

 内鮮融和の為にも、朝鮮人と内地・台湾人との間の婚姻・戸籍新規作成等を可にすることを目的とする

 

第2節 記載事項

 

1.戸主及び家族の姓名及び本貫並びに前戸主の姓名

2.戸主の籍

3.戸主又は家族が朝鮮貴族となる時は其の旨

4.戸主及び家族の出生の年月日

5.戸主又は家族となりたる原因及び年月日

6.戸主及び家族の実父母の姓名並びに戸主及び家族の実父母との続柄

7.戸主又は家族が子なるときはその親及び実父母の姓名並びに子と親及び実父母との続柄

8.戸主と前戸主及び家族との続柄

9.家族の配偶者または家族を経て戸主と親族関係を有する者については其の家族との続柄

10.他家より入りて家族と為りたる者は他の家族とのみ親族関係を有する時は其の続柄

11.他家より入りて戸主または家族となりたる者に付いてはその原籍、原籍の戸主の姓名及び其の戸主と戸主または家族と為りたる者との続柄

12.後見人または補佐人ある者に付いては後見人または補佐人の姓名、本籍並びに就職及び任務終了の年月日

13.その他戸主または家族の身分に関する事項

内地戸籍法との相違

本貫の付記

. 「朝鮮貴族」と「家族まスは士族」

→ 内地と同等の戸籍制度の確立

 

第6章 朝鮮寄留令1942.8.

 

第1節 時代背景

総力戦への突入 朝鮮半島からの格的な「人的」資源動員の必要性

1939. 11.国民徴用令

1940. 10.国民総力連盟 − 皇国臣民化運動格化

 

第2節 記載事項等

 

これについては現在調査中 行細則の未入手(近日入手定)

→ しかし、これにより、事実上住民登録の分野でも、内地同等のシステムが形作られる

 

むすびにかえて

 

日本統治期以前の住民登録制度

 

1) 前近代の戸籍 − 末端行政のためのデータベース(それ以上の意味を持たず)

2) 戸口調査規則 − 調査項目の充実

これに対する、抜的改革としての、

3) 民籍令     これにより、「戸籍」が従来のデータべースの領域を離れ、

             該当各人の身分関係を証明するものに変化

→ しかし、これにより却って、「戸籍」は行政データベースとしての信頼性を失わせる

4) 宿泊及居住規則 民籍の「現住」人口からの遊離

→ これを補うために「現住」状況を調査するための同制度が、主として治安維持上の必要性から導入

しかし、この段階では、戸籍・居住の間の連動なし

→ 併合直後の暫定的措置から、措置から内地型組織への以降の必要

5) 朝鮮戸籍令 内地の戸籍制度に朝鮮の親族制度を加味したもの

6) 朝鮮寄留令 内地型の住民登録制度

 

 

補論・朝鮮半島における旅券発行について(統監時代)

 

本人証明書類

1)韓国臣民 − 住所地の韓国地方官の証明或いは保証人の連署

2)韓国官吏 所属長官の証明

→ 民籍令以前においては戸口調査に本人確定の効力なし

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